キャスパーの書庫

キャスパーです。 大好きなアニメの妄想モリモリの二次創作小説をぽつぽつと書いていこうと思います。 アニメ全般大好きなので、広く繋がっていけたらいいな。

何がパッピーハロウィンだ、クソ野郎

 

 バーリントの街の空気は少し乾燥し、唇のかさつきがそれを感じさせていた。季節は夏から秋へ変わり、朝晩は長袖一枚では少し心もとないくらいだ。夏の暑さにうだっていた時は、“早く涼しくなってくれ”と願っていたのに、今ではあのジリジリとコンクリートを焼き付ける太陽がほんの少し恋しくなってきた。
 街中にタバコ屋を営むモジャモジャ頭の店主は、もうそんな季節かと、その一際目立つ頭をポリポリと搔きながら、目の前のピンク髪の女の子をに視線を移した。
「ほら、もじゃもじゃにもしょーたいじょーつくってやった!」
「招待状ねぇ」
 渡された招待状には場所や日時の他に、仮装してくること、お菓子を沢山持ってくるなどの必要事項が書かれているらしい。
「かそーしてこないとはいれない、あとしょーたいじょーわすれてもはいれない」
「へぇ~本格的だなぁ、まぁ残念だけど俺は行かないぜ」
「え、なんで⁉」
「なんでって俺は暇じゃないんだよ、いろいろやることもあるし」
「ただでおかしもらえるおいしいいべんとなのに…」
 まぁ子供からしたらそうだろう。面白おかしく仮装して、魔法の言葉を言えば大人たちからお菓子がもらえるのだから。しかし大人は違う、もうお菓子をもらう側でもないし、お菓子をもらって喜ぶ年でもない。フランキーは、お前ら家族だけで楽しめばいいじゃないか、と気だるそうにいう。
「もじゃもじゃはろうぃんきらいなのか?」
「別に好きでも嫌いでもねぇよ、ていうかお前ハロウィンがどういうものか知ってるのか?」
「おとなからおかしもらいほうだいなひ」
 予想通りの回答をしたアーニャに、少し長くなるけど…と前置きをし、ハロウィンについてできるだけわかりやすく話始めた。

 

 そもそもハロウィンとは、古代ケルト人の儀式「サウィン祭」という秋の収穫祭が起源と言われており、古代ケルト歴では、10月31日が1年の終わりの日とされていた。 この日の夜はあの世とこの世の境い目がなくなり、死者の霊が現世の家族に会いに来ると信じられていたとか。その時、先祖の霊だけでなく悪魔や魔女、さまよえる魂なども死後の世界からやって来るため、 人々はそれらと同じ格好に仮装して仲間だと思わせることで、悪い霊から身を守ったとか。

 

「こわいおばけいっぱい…」
ガクガクと震える様子を見て、少し脅かしすぎたか?と心配になり話を戻した。
「そんで、そういう怖いお化けが家の中に入り込まないように、お菓子を渡すことで帰ってもらったってわけだ、要は魔除けだな」
「なるほど!じゃこわいおばけこないように、おかしいっぱいもらわなきゃ!」
 こいつ全然わかってねぇな、とアーニャをチラッと横目で見たが、まぁ別に大した問題じゃないと、めんどくさくなったフランキーはこの問題を放置した。
「まぁそんなの言い伝えみたいなもんで、実際会いに来る霊もお化けもいないけどな」
「さびしいやつだな」
「うるせーよ!どうせ俺は霊にも会いに来てもらえない寂しいやつだよ!」
 まぁ俺に会いに来る霊なんてだいたいろくな奴じゃない。子供のころの事なんてそう覚えてもいないし良い記憶もない。その後は戦争に駆り出されて嫌々走り回る日々だったから、仲の良い奴なんているわけもない。会いに来るとしたら裏切って逃げた俺を恨んでる奴くらいだろうな。そう思うとつくづくハロウィンなんてどうでもいい、とフランキーは文句の代わりに溜息をついた。
 珍しくフランキーの過去を垣間見たアーニャだったが、難しいことはよくわからなかった。ただフランキーがハロウィンパーティを楽しめるように、ちちにごちそうを用意してもらおうと思った。
「もじゃもじゃ、おかしいっぱいもってこいよ」
そう言い走り去って行った後ろ姿を見えるところまで見送ると、渡された招待状に目を向け笑った。
「汚ねぇ字だな、なんて書いてあるのか難解すぎるだろ」

 

 

 

 以前、情報屋が一人消されたことがあった。
 別にこっちの世界じゃ珍しいことではないが、おかげで以前より情報収集するのが一層難しくなったそうだ。裏稼業は“カオが物言う世界”だ、というフランキーにとって、この問題は一朝一夕でどうこうなるものではないし、下手をすれば次は自分が…と思うことも少なくはなかった。
 喫茶店で昼食を食べた帰り道、趣味の発明品の部品を買おうと街をぶらぶら歩いていると、その間にも情報は山のように転がっている。5番街の洋服店が潰れて空き店舗になったとか、4番街の洋菓子店に弟子が入ったとか…。
 街中がハロウィンの雰囲気で彩られ、ショーウィンドーにも可愛らしいハロウィンの小物やお菓子が飾られている。行けたら顔を出すか、くらいにしか思っていなかったが、綺麗に並べられたお菓子たちを見ていたら、ついアーニャにお菓子をあげたらどんな反応をするかと想像してしまった。
 そんなの想像するまでもない。と少しだけ頬を緩ませると、一応買っておいてやるか、と呟き店内へ入って行った。

 

 店の入り口正面にはお菓子コーナーが特設されていて、目玉キャンディや指先クッキー、カボチャのマフィンなどが山積みになっていた。女性客や子供連れが多い店内で、男性一人というのは少し目立ってしまうかと危惧していたが、みな目の前の色とりどりのお菓子に夢中だった。
「どれも美味そうだけど、どうせなら面白いもんがいいよな。この目玉キャンディなんて見たらアイツ絶対びっくりするぜ。お、このドクロチョコもなかなかいかすな。いっそのこと全部怖い系のお菓子にしてやろうか、いや、さすがに怖がらせすぎか?」
 ぶつぶつと独り言を言いながらお菓子コーナーを物色する姿は不審者さながらだったが、時折浮かべる優しい笑みがそれをなんとか中和していた。
結局キャンディやらクッキーやらと気づけば沢山買い込んでしまい、さすがに多すぎたかと考えていると、ハロウィン用の衣装コーナーの前を通りかかった。
「そういえば仮装もしてこいって言ってたよな、ちょっと見ておくか」
 そういい辺りの商品を見渡すと、可愛い猫耳やナース服など女性用の衣装が多くみられ、独身男性彼女無しがうろつくには先ほどのお菓子コーナーよりも少々難易度が高いようにも思えた。店内の奥の方には男性用の仮装衣装も見えるのだが、そこへ向かう一歩が踏み出せず、フランキーの心中は荒れていた。
 
 少し離れたところにいる若い女の子二人組がこっちを見て笑っているように見えるのは気のせいか⁉ 店員が場違いだと言わんばかりに俺を蔑んだ目で見ているのは気のせいなのか⁉ くそっ!恐るべしハロウィン!なんて難易度の高いミッションなんだ!こういう時黄昏ならうまくやってのけるんだろうけど、そんなのイケメンだから許されるのであって俺が同じことやってもどうせダメなんだろ⁉ 何がハロウィンだ、クソ野郎!やってられるか!別にパーティなんて参加しなくてもいいし、最初から参加する気なんて無かったし!このお菓子は喫茶店のあの子にあげればいいもんね!

 

 そう心の中で一通り文句をぶちまけると、店内に背を向けた。
「はぁ~余計に疲れちまったぜ。最初から俺には無縁なものだったんだよ、誘われたからって律儀に行くこともないだろう」
 そう言いながらも足は重く動いてくれない。自分に招待状なんて寄こしたアーニャの顔がどうしてもちらついてしまう。行かなくて後で何か言われても面倒だなとか、せっかくだしお菓子くらい渡すか…などとごちゃごちゃと考えること数分、フランキーは決心したかのように再び店内の方へ体を向けた。
「あぁもうめんどくせぇ!うだうだ考えるのはやめだ!行くよ!行ってやるよ!どうせならアイツが泣いてチビるくらい本格的な仮装をしてやる!大人の力を舐めるなよぉ!」
 大きな独り言で周りの客が若干引いていることなどには目もくれず、並べられたナース服の横を通り過ぎて行った。店内には衣装以外にも小物が多く取り揃えられていて、メイク道具や血糊など多種多様。その種類の多さにフランキーは変装にも使えるのではと興味深々、そして数十分後に戻ってきたその手には、さらに大きな袋を下げていたとか…。

 

 「結構買っちまったな、いやーあそこまで種類が多いと思わなかったぜ。帰ったら早速使ってみるかな」
 思わぬ収穫物に心躍りながら帰路へとつくフランキーだったが、その表情は次第に曇っていった。突然ふらっと興味もない店に立ち寄ったり、わざと人混みの中を歩いたり、ウインドウのガラスで髪を整えたりするが、やはりフランキーの表情は変わらなかった。それどころか心中では焦りすら覚えていた。

 

 “誰かに見られている気がする”

 

 バレないようにあたりを見渡してもそれらしき人影は見えなかったが、不安はぬぐえなかった。人の多い通りを歩き、遠回りしながら振り切ろうと頭に地図を思い浮かべると、手にしていた荷物を強く持ち直した。
 出来るだけ角を曲がって死角を作ろうと、マンションの立ち並ぶ通りへ曲がった時だった。突然誰かに呼ばれた気がして立ち止まると、視界の上から下へ何かが落下したのが見え、パリンという破裂音と共に、近くにいた女性の悲鳴も一緒に聞こえた。
 フランキーの足元には割れた鉢植えと飛び散った土と花が散乱しており、少し遅れて頭上のマンションから落下してきたものだと認識できた。あと一歩足を踏み出していたら、この鉢植えは自分の頭を直撃していただろうと思うと身震いがした。慌ててマンションの上の方を見上げるがそこには人影もなく、乾いた秋空が見えるだけ。ただの事故…とは思えないが、フランキーは足早にその場を去った。
 俺の考えすぎか…たまたま鉢植えが頭上から落ちてきただけ、そうそれだけだ。何十年も生きてればそういうこともあるよな、いや逆にそんな偶然に出会えたこともラッキーだとポジティブに捉えるべきか。
 焦りと動揺から思考がうまく回っていないフランキーは、とにかく死角をと手当たり次第角を曲がった。しかし冷静さを欠いていたせいで工事中の通りに入ってしまったことにフランキーはまだ気づいていない。
ちょうどお昼時だったこともあり、作業員たちはみな昼休憩をとっていて現場は静かなものだった。その時、再びフランキーは誰かに呼ばれた気がして立ち止まった。誰だと振り返るが、それらしい人は見当たらず、秋風に吹かれながら歩いている人たちだけだった。また気のせいかと正面を向いたとき、今度ははっきりと作業員の男性に声をかけられた。
「おいおい!今工事中だから入っちゃいかんよ!」
 そういわれて足元を見ると、地中深くまで掘られた穴が目下にあった。作業員の男性は、ちゃんとバリケート立てといたはずなのに可笑しいな、と小首をかしげる
「あっぶねぇ…あと一歩で落ちるところだった」
 さっきの鉢植えといい、工事現場といい、やはり誰かに狙われてるのではないかと危機感を覚える。相変わらず見られているような視線は途切れることがなく、不気味な感じが背中から伝わって寒気すら感じる。これは本格的にヤバいと感じたフランキーは、緊急用の避難場所へと足を急いだ。

 

 狙われているとしたら一体誰に?そもそも足がつくようなヘマはしていない、しかし誰からも恨みを買っていないかと言われると否定はできない。わかることは、もしかすると消されるかもしれないということだ。裏社会に居ればその可能性と常に隣り合わせだということは百も承知していたが、いざその状況になってみると忘れていた恐怖心が溢れるように湧き出てくる。まるで自国を裏切り仲間たちから追われていた時のよう。死と隣り合わせ、いつ後ろから撃たれるかわからない恐怖、誰もが敵に見えてくる。
 それともう一つ気になっているのが、さっきも聞こえた自分を呼ぶ声。誰かが自分を罠にはめるために呼んだのか、しかし一体誰が…。
 周りを警戒しながら速足で通りを出たその時、再び誰かに呼ばれた気がした。一瞬動揺し辺りを見渡そうとしたが、これも罠だと思ったフランキーは立ち止まることなくそのまま足を進めた。すると突然車が猛スピードで目の前を通りすぎ街頭に突っ込んだ。辺りには車の破片が散乱し、大破した車からはクラクションが鳴り続けていた。あと30センチほどフランキーが前に出ていたら確実に巻き込まれていただろう。
冷や汗が止まらなかった。完全に狙われている、そう確信した。焦りと動揺が本能的に体を突き動かし一目散に駆け出した。
 とても俺一人で対処できる問題じゃない、黄昏に助けを求めるべきか…いやアイツだって他の任務で忙しいし、そもそもどこの誰が狙ってるかわからない以上下手にアイツを巻き込むわけにはいかない。あくまでこれは俺個人の問題であって、アイツは組織の人間だ。暫く仕事はできなくなるが、身を潜めて敵の様子を伺うしかないな。
 残念ながらパーティには行けなさそうだ、せっかく招待状くれたのに悪いな。あーあ、買ったお菓子も仮装も無駄になっちまう、ほんと散々だよ。俺もいよいよあっち側に行く時が来たのかもしれない、まぁ裏稼業なんてそんなもんさ。寧ろいきなりズドンなんて殺されなくてよかった、おかげで少しはいろいろ考える時間ができたしな。もしパーティの前に死んだら、ハロウィンにはアイツらの家に寄ってやるか、きっと目ん玉飛び出るくらい驚くだろうな。

 

 

 

 それから10日ほど経った日の夕方、フランキーは緊急用避難場所の食料が尽きてしまったので買い出しに出ていた。自分を狙っていた敵もさすがに1週間も姿を見せなければ逃亡したか死んだと思うだろうとずっと身を潜めていたのだが、食糧庫には1週間分の備蓄しかなく、念には念をと節約して10日ほどで尽きてしまった。できればまだ表に出ることは避けたかったが、水もないためこれ以上は無理だと観念し地上に出たのだ。
 久しぶりに日の光を浴びたが、残念ながらもう夕日に変わっていたため爽快感は半減。居場所はバレていないので辺りに怪しい人影は見当たらない。命を繋ぐための食料の買い出しだが、それであっさりやられてしまっては元も子もないと警戒しながらスーパーへと足を進める。
「おい、フランキーか?」
聞き覚えのある声に思わず顔をあげると、懐かしい友人の姿があった。
「お前今までどこに行ってたんだ、いつものタバコ屋にもいなかったし、連絡も寄こさないから何かあったのかと思ったぞ」
 その口ぶりから心配してくれたのかと思うと、ついつい頬が緩んでしまう。
「今日のパーティーに来ないかもと言ったらアーニャのやつ落ち込んでた」
 パーティーと言われて、今日は10月31日のハロウィンだと気づいた。
「悪いな、ちょっといろいろあって身を潜めてたんだ」
 久しぶりに人に向けた発した声は思ったより小さく掠れていた。
「身を潜めるって、一体何があったんだ?」
 このことを話したらコイツは絶対に何かしてしまうだろう、口では素っ気ない態度をとっているが根は優しいやつだと知っているから。何でもないというのは簡単だが、コイツに嘘をつくのは容易ではない。ここで会ったのも何か縁だと思い、ここ2週間の出来事をすべて話した。
「ていう感じでな、もう腹ペコだよ。まぁ今までの付けが回ってきたってところだろうな。今思えばあの声は俺をあっち側に呼ぶ声だったのかもしれない。それが幽霊か死神かは知らないがな」
 これがコイツとの最後の会話になるかもしれないと密かに思いながらも、いつも通りのヘラヘラした笑みを浮かべる。心配してくれるか、助けてやると言われるか…もう半ば諦めて覚悟を決めたフランキーは、どんな申し出をされても断るつもりだった。
「お前は何を言ってるんだ?もう少し頭を使えこのバカが」
 この状況で罵倒する言葉が出てくるとは予想外だった。目をまん丸にしたフランキーを見て溜息をつくと、呆れた様子で話し出した。

 

「お前を殺す目的ならそんな生ぬるいことをする殺し屋がいると思うか?何のために事故死に見せかけたいんだ?お前は主要級の要人でもなければただの一般人だ。例え撃たれて死んだとしてもニュースに取り上げられるかもわからない。お前が死んだところでこの国に何の影響もない、そんなただの一般人を事故死に見せかける理由が見当たらないな」
「で、でも本当に狙われたんだぜ!誰かに見られてる感覚もあった!」
「だとしたらなぜたばこ屋は無事なんだ?居場所がわからないなら戻ってくる可能性を考慮してタバコ屋にトラップを仕掛けるくらいするだろう。しかし様子を見に行った時そんな痕跡はなかった。殺し屋が本気ならお前の居場所くらい掴んでいるはずだ、今日まで2週間生きているのが何よりの証拠だろう。お前の身に起きたのはただの不慮の事故だ」
「じゃぁあの俺を呼ぶ声は何だったんだよ!あれは絶対空耳なんかじゃなかった!俺を呪う声か、死神の迎えに違いないって!」
 確かに殺しに関しては俺よりコイツの方が詳しい。コイツがそういうならそうかもしれないが、でもあの声のせいで危ない目にあったのも事実だ。
 夕日がさっきより傾き、ロイドは少し眩しそうに眼を細める。
「よく考えてみろ、お前さっき言ったよな?呼ばれた気がして立ち止まったって」
「あぁそうだ」
「立ち止まったら、鉢植えが目の前に落ちてきたり、工事現場の穴に落ちかけたり、車に突っ込まれそうになったと」
「だからそうだって言ってるだろ」
「その声で立ち止まったおかげで回避できたとは思わないのか?逆にお前を呼び止めなければ事故に合わせることは容易だと思うが」
 そんなわけ…、と思いながらも状況を思い返してみる。確かに呼ばれてから立ち止まって振り返る時間が数秒あった。そのラグを計算できないほどアホな殺し屋はいないだろう。確かに言われてみれば、すべて呼ばれて立ち止まった後に起こった事故だった。立ち止まらずにあのまま進んでいたら…。
「でも俺の事を助けるなんてどこの誰だよ、そんな親切な奴に心当たりはないぞ」
「周囲にそれらしい人がいなかったというなら、お前のことが好きな隠れファンか…もしかしたら本当に幽霊かもしれないな」
 お前が非科学的なことを信じるたちか?とつい突っ込んでしまう。
「ハッ、幽霊にしたって同じだよ。俺を憎む奴はいても助けようなんてそんな奴いるわけないだろ」
 俺はいろんなものを裏切って今ここにいるんだから、と小さく吐き捨てた。
「案外、もうお前のことを許してるのかもしれないぞ。幽霊なんて信じちゃいないが、お前が聞こえたというなら聞こえたんだろう。でもそれはお前自身が引き起こした幻聴かもしれない。最近そういうことを考える機会があったんじゃないか?いい加減、いつまでも自分のことを責めるな」
 もしかしたらそう伝えるためにわざわざ来たのかもしれないな、と本気で思っているのかわからないようなことを言う。
 「なんだよそれ、お前幽霊は信じないんじゃなかったのか?言ってることめちゃくちゃじゃねぇか」
 ロイドのらしくない発言にフランキーは思わず笑みを浮かべた。
確かにあれから何も無さ過ぎて不自然には思っていた。黄昏の言うことには説得力があるし、そう考えたほうがしっくりもくる。このまま緊急用避難場所に戻ってもいいが、いつまでもビビッて逃げてたら仕事にならない。まぁもし本当に狙われて…なんてことになったとしても、今は自分らしくいるほうが楽しいに決まってる。さっきまで暗く沈んでいた自分が急に馬鹿らしく思えた。
 まだパーティーは終わってないかとロイドに尋ねると、夕食はこれからだ、とさも当然のように答えた。
「よーっし!それなら今からパーティーに参加するぞ!主役は遅れて登場するからな!っとその前に招待状とアイツに買ったお菓子と仮装を取りに行かないとな、結構量あるからお前も手伝え」
 ロイドの背をバンバンと叩き歩き出す。やっといつもの調子を取り戻したフランキーを見て少し嬉しそうにその手を払う。その道中、仮装をするときの道具が変装に使えるだとか、あのお菓子がすごかったとか、ロイドにとってはどうでもいいようなことをフランキーはとても楽しそうに話した。
 俺が本当に許されたなんて都合のいいことは思っちゃいない。そもそもアイツらは俺の事なんて覚えてないかもしれないっていうのに…。まぁ恨んでいたとしてもいなくても、もし本当に俺に会いに来てくれる奴がいるなら、今度は酒とつまみでも用意しておいてやるか。そうすりゃきっと飲んで食って楽しんで帰ってくれるだろうよ。
 ハッピーハロウィン!クソ野郎共!