キャスパーの書庫

キャスパーです。 大好きなアニメの妄想モリモリの二次創作小説をぽつぽつと書いていこうと思います。 アニメ全般大好きなので、広く繋がっていけたらいいな。

ガラスの靴は必要ありません

 

 むかしむかし、ある国にシンデレラという美しい娘がいました。 

 母親を病気でなくしたシンデレラは、父親とふたりで暮らしていましたが、その父親がシンデレラを酷く溺愛しており困っていました。


「あぁシンデレラ!お前はなんて美しいんだ!絶対に嫁になんかやらん!僕の目が黒いうちは!いや幽霊になったって嫁には行かせないぞ‼」
「ちょっとやめてくださいユーリ、お嫁に行けなかったら私が困るじゃないですか」
「僕が永遠に養ってあげるから大丈夫だよシンデレラ!毎日健康的な食事と運動をしてれば150歳くらい余裕だよ!」
 とてもしあわせな毎日でしたが、父親はあっけなく事故で死んでしまい、幽霊となって一緒にくらしました。

「シンデレラ、さっさと食事の用意をするんだ、20分以内に」
「それができたら私たちのパジャマを洗いなさい」
 ある日突然、父親と再婚していたと名乗る相手が現れたのです。その人はバツイチ子持ちでとても意地悪だったのです。
「あのハンドラー…いえお義母さま、昼食はシチューでよろしいでしょうか」
「昨日もその前もその前もシチューだったじゃないか、まぁそれ以外は食べれたものじゃないが…もういっそ諦めて自分で作ったほうがいいか…」
「それと、フィオナお義姉さまのパジャマはレース素材で寒そうでしたので、ぼろ布で作った私のパジャマと交換しておきました、今夜は暖かくして寝れますよ」
「何余計なことしてんのよ!あのレースが可愛いんじゃない‼さっさと返しなさいよ‼」
「え、でも…もうキッチンのカーテンにしてしまいました…」
「ギャーーー!!」
「僕の可愛いシンデレラをいじめるなんて許せなぁぁあああい!!!毎晩枕元で呪いの言葉を言いまくってやるぅぅぅぅううう!!」
と、こんな感じで毎日毎日楽しく暮らしていました。

 ある時、シンデレラの屋敷にお城からの招待状が届きました。
「ふーん、どうやら王子様が、お妃を探すために舞踏会を開くようだね」
「王子様ってあの超絶イケメンハイスペックな方よね。お母様、私絶対に舞踏会に行くわ。そして王子と結婚します。例え他の奴らを蹴落としてでも」
「いい心掛けだ、この屋敷の財産も情報も大したことなかったし、次は国に手をかけるのもいいな。その方が国家を操作しやすい」
「あの王子様が私のものに…ハァ、ハァ♡」
「ふふ、楽しそうですね。では私は留守番してますので、お2人でいってらっしゃいませ」
 王子様にも舞踏会にも興味が無かったシンデレラは、快く継母と義姉を見送りました。シンデレラにとって平和で平凡が一番、目立つようなことはしたくなかったのです。

「さて、お洗濯も終わりましたし、次は巻き割りでもしましょう」
 すらっとしたその容姿からは想像できないが、シンデレラは家事の中で薪割りが一番好きでした。どうやら、スパッと割れる様が爽快なんだとか…。
 シンデレラが薪割りをしていると、突然背後から声をかけられました。
「おまえ、しんでれらか?」
「あら、これは可愛いお客様ですね。はい、確かに私はシンデレラですが何か御用ですか?」
 ピンクの髪に魔法使いのようなローブを来た可愛らしい少女が、もふもふの毛をした犬を連れていました。
「おまえ、ぶとーかいにいかないのか?」
「舞踏会ですか?いいえ、私はお留守番です」
「なんでいかない?いきたくないのか?」
「んーそうですね…お城にも王子様にも興味ありませんし…私はここで平和に暮らせればそれでいいので」
「そうだそうだ!シンデレラは僕のだぞ!王子だろうが誰だろうが渡さん!」
 どこからか変な声が聞こえる…とピンク髪の少女はシンデレラの頭上あたりを見つめますが、まぁいっかと気にしない方向でいくようです。
「んーでもそれだとアーニャがこまる、おはなしにならない。しんでれらぶとうかいにいって」
 どうしてこの子が困るのでしょう…お話とはなんのことでしょう?と疑問を浮かべるが、そういった立ち入ったことを聞いてもいいものかと迷ってしまいました。
「あの…まず舞踏会に行くドレスがないので、そもそも行けないのです」
「じゃドレスがあればいけるんだな!」
「おい、余計なことをするんじゃない小娘!」
 うーん、と顔をしかめていた少女の表情はぱっと明るくなり、ローブから杖を取り出したと思うと呪文を唱えました。
「えっと、じゅもんってなんだったっけ?ん~…そうだ!きれいなドレス、きれいなドレス…びびで、ばびで、ぶー!」
 杖から一筋の光の粉が現れ、あっと言う間にシンデレラを包み込みました。すると驚くことに、シンデレラは美しいドレスを身にまとっていたのです。
「これは一体…こんなに綺麗なドレスは初めてです!」
「うんうん、さすがアーニャ、かんぺきなしごと」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!綺麗だ!美しいよ僕のシンデレラぁぁぁあああ!!」
「ボフッ」
 少女が満足げな笑みを浮かべていると、隣にいたもふもふな犬がシンデレラの足元を指し吠えしました。
 シンデレラのドレスは美しいものに変わりましたが、靴は元のボロ靴のままだったのです。
「あ、くつわすれてた。えっと…きれいなくつ、きれいなくつ…びびで、ばびで、ぶー!」
「まぁ!これはガラスの靴ですか?すごくきれいです!」
「よし、こんどこそこれでかんぺき!」
「ぐはっ!綺麗すぎて直視できないっ!」
「ボフッ」
 少女が満足げな笑みを浮かべていると、隣にいたもふもふな犬は首から下げていた時計を見せ再び吠えしました。
「ん?どうしたボンド、アーニャのしごとはかんぺきだぞ」
 少女は何が言いたいのか意図を察することができず首をかしげていました。そこでシンデレラは申し訳なさそうにいいました。

「あの…たぶん犬さんは舞踏会の時間のことを言っているのではないでしょうか?ここから歩いてで舞踏会に間に合いません。ここまでしていただいたのに申し訳ないです…。今から全力で走れば間に合うかもしれませんが、でもこのドレスと靴では無理ですね…馬車も継母とお義姉さまが乗って行ってしまいましたし」
 普通の貴族令嬢は全力ダッシュなどしないし、お城まで走るなんてそんな発想に至らないが、今それは問題はなかった。
「そうだった!アーニャがばしゃとかいろいろださなきゃだった!えっとえっと、ばしゃはたしかかぼちゃだ!しんでれら!かぼちゃちょうだい!」
「かぼちゃですか?はい、それなら畑にいっぱいあります」
「あとは…んーっとちょっとまて、このほんには…あ!ねずみだ!しんでれら!ねずみもちょうだい!」
「ねずみですか?すみません、うちにねずみさんはいないんです」
「ガーン!ねずみいないと、ばしゃひくひといない…」
 少女は膝から崩れ落ち「おわった…」と状況を嘆き、そんな少女を見て浮遊している男は、ざまぁみろ!と嘲笑っていました。
「ねずみさんがいないとうまさんできない…ねずみさん、どこかにねずみさんは…ん?ねずみじゃなくてもいいんじゃないか?よし、ボンド、うまになれ」
 少女の目がもふもふの犬を捕えると、犬は首を横に大きく振りました。しかし少女の目は悪役そのもの、ニヤリと笑うと呪文を唱え、もふもふの犬をう馬に変えてしまったのです。
「ボフゥ…」
「これでばしゃもうまもある!しんでれらぶとーかいにいってこい」
「えっと…私が行かないとアーニャさんが困るんですよね?」
「うい、おはなしてきにアーニャこまる」
「わかりました。せっかくここまでしていただきましたし、アーニャさんのために舞踏会に行ってきます」
「ダメだシンデレラ!美しい君を見たら王子どころか城中の奴らが君に夢中になってしまう!!そんなこと絶対にさせん!!」
 馬の姿に替えられた犬は溜息をつくようにピンク髪の少女に向かって吠えました。
「ん?なんだボンド、うまさんいやなのか?」
 嫌に決まってる、と言っても伝わらないだろうと諦めている犬は、今度はシンデレラの方を向いて吠えました。
「なにいってるんだ?ん~そういえばなにかわすれてるような……あ!だいじなことわすれてた!しんでれら、アーニャのまほうは…えっと、とけいのながいはりとみじかいはりがいちばんうえにいったときにとけちゃう!」
「長い針と短い針が…0時ということでしょうか?」
「そうたぶんそれ!」
「わかりました、それまでには戻ってくるようにしますね。ではアーニャさんいってきます」
「うい、いってらさい!」
「ダメだシンデレラぁぁあああ!!行かせないぞぉぉぉおお!!」
 浮遊した男は馬車の前に立ちはだかりますが、馬車はそれを突き抜けてお城の方へ走り去っていきました。
「くそっ!こうなったら城まで追いかけるしかない!」
「おまえうるさいからそこにいろ」
 ピンク髪の少女は呪文を唱えると、浮遊していた男を庭の大木に縛り付けてしまいました。
「何するんだこの小娘!放せ!僕はシンデレラの元へ行くんだぁぁぁああ!!」
「よし、アーニャのしごとはこれでおわり、あとはうまくやれよ、おうじ」
 役目を終えたピンク髪の少女はるんるんと歩いて行ってしまいました。


 シンデレラがお城へ着くと、その装飾の豪華さや人の多さに圧倒されていました。しかしその豪華な装飾に負けないほど美しいシンデレラの姿に会場のみんなは釘付けでした。
「なんだかとても見られているような気がします…やはり私なんて場違いだったのでしょうか…」
「ちょっとあそこにいるのはシンデレラじゃない⁉どうしてあの子はあんな綺麗なドレスを着ているのよ!」
「ふむ、どうやらお前の勝ち目は無いようだね。大人しく帰るとするか」
「ちょっと何言ってるのよ!私が王子様と結婚するのよ!あんな料理をさせればダークマターしか作れないような頭の可笑しな女に負けるわけにはいかないわ!」
「状況をよく読み、引き際を見極めるのも大事だ。それに見てみろ、もう王子様が来ているじゃないか」
 皆の視線を集めているシンデレラに王子様が気づくのに、そう時間はかかりませんでした。王子は自らシンデレラの元へやってくるとダンスを申し込みました。
「こんばんは美しいレディ、もしよろしければ貴方の名前を教えてもらえませんか?」
「えっと、初めまして王子様?私の名前はヨルです」
「ヨルさんですか、いい名前ですね。申し遅れました、私はこの国の王子のロイドと申します。是非ロイドと呼んでください。そしてよかったら僕と踊っていただけませんか?」
 シンデレラの美しさを他の男に見せるわけにはいかない!という理由で社交界に出ることを父親に禁止されていたので、異性と踊ったことがないシンデレラは自信がありませんでした。しかし王子様の申し出を断ることもできないシンデレラは、申し訳なさそうにいいました。
「あの…こういう場は初めてなのでロイドさんの足を踏んでしまうかもしれません…」
「構いませんよ、貴方のような方に踏まれるなら足も喜ぶでしょう」
 そういってシンデレラの手を取ると、王子様とシンデレラは広間の中央へ向かい踊り始めました。2人のダンスは惚れ惚れするほど優雅…ではなく、皆ハラハラしながら見守りました。

「そう、体を僕に預けるように…い゛っ‼」
「あ、すみません!また足を踏んでしまいました」
「い、いえ…お気になさらず…そのまま流れるように~いだっ‼」
「あわわ!すみませんロイドさん!やっぱり私にダンスなんて無理だったんです」
「何言ってるんですか…僕の足はよ、よろこんでいますよ…」
 靴底に鉄板を仕込んではいるが、靴全体の強度をもっと上げておくべきだったな…と王子様はひきつった笑顔とその額には冷や汗を浮かべていた。シンデレラはこんな自分にも優しくしてくれるなんて、と王子様の優しさに感激していました。
「では曲調を変えてみましょう。ヨルさんの動きには激しいテンポのほうがあっている気がします」
 王子様が指揮者に合図をすると、曲調がゆったりとしたワルツからアップテンポなタンゴに変わりました。
「ヨルさんの好きなように踊ってください、僕が合わせますから」
「わかりました。ではっ!」
 するとシンデレラはすごい勢いでステップを踏み、まるで飛ぶように踊りだしました。王子様はその勢いにまるで引きずられるようでしたが、すぐにシンデレラと同じレベルに合わせたのです。
「すごい、こんなに激しいダンスは初めてです!それにさっきよりも生き生きしていますよヨルさん」
「ふふ、私もこんなに思いっきり踊ったのは久しぶりです。まさか父以外にこれについてこれる人がいるとは思ってもいませんでした」
 二人のダンスは圧倒的で、まさにレベルが違う世界でした。王子様狙いの令嬢たちは、こんな激しいダンスは無理…と、妃の座を諦めるものが続出していました。ある一人を除いては…。
「私だってあれくらいのダンスできるわ!王子様だって私と踊ればきっと虜になるに違いないのに!」
「私は別にどっちが妃になってもいいんだがね。それで国が操れるのならば…しかしあの王子、噂には聞いていたけどなかなかのやり手らしいな。妃になったとしてもそう易々と言うことを聞いてくれるとは思えないな」
 ちょっと周りで踊ってくるわ!といい義姉は王子様とシンデレラの周りで1人タンゴを踊り始めました。継母は、滑稽で見ていられない、という素振りをし、静かに会場を後にしました。
 王子様とシンデレラの激しいダンスは暫く続き、気づけば0時を知らせる鐘が鳴り始めてしまいました。

「大変です!もう帰らないと!ごめんなさいロイドさん、今夜はとても楽しかったです。私、今日のことは忘れません、さようなら!」
 そういうとシンデレラは振り返ることもなく門に向かってものすごいスピードで走っていきました。
令嬢が全体ダッシュだと⁉しかもあのスピード!ただ者ではない!シンデレラの脚力に驚きながらも、王子様も負けないくらいのスピードでシンデレラを追いかけました。
「待ってくださいヨルさん!」
 王子様が必死に叫びますが、シンデレラは魔法がとけたみすぼらしい姿を見せるわけにはいかないとさらにスピードをあげました。
「やっぱりドレスだと走りにくいですね、それにこのガラスの靴も…脱いで走ったほうが早そうです」
 シンデレラは何のためらいもなくガラスの靴を脱ぐと、その靴を手に持ったまま素足で走りました。
「待ちなさいシンデレラ!アンタそのドレスどうしたのよ!王子様の目を引くなんて許さないわよ!そのドレスを寄こしなさい!」
 同様に凄いスピードで追いかけてきた義姉はシンデレラに掴みかかりました。シンデレラは走るスピードを緩めることなく必死に義姉と応戦します。
「やめてくださいお義姉様!私そんなつもりじゃありません!」
「言い訳なんて見苦しいわよ!アンタのその恰好が何よりの証拠じゃない!王子様に色目を使うなんて許さないわ!」
 全く言い分を聞いてくれない義姉と残された時間に焦るシンデレラ。ゴーンと鳴り響く鐘の音は今何回鳴ったかしらと、そのことに気を取られ、うっかり手に持っていたガラスの靴で義姉を殴ってしまいました。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、ごめんなさいお義姉様!えっと、時間がないので先に行きますね!」
 頭から血を流し叫ぶ義姉を残し急いで階段を駆け下りるシンデレラ。残っていたもう1足のガラスの靴はもういらないかと階段の隅に置いてしまいました。
「ボンドさん、お待たせしました!急いで馬車を出してください!」
「ボフッ!」
 もふもふの犬…いえ馬は、急いで馬車を走らせ城を後にしました。遠くに走り去っていく馬車を見つめる王子様の手には、シンデレラが置いていったガラスの靴がありました。
「珍しいな、お前がそこまで夢中になる女なんて」
 王子様をお前呼ばわりするのは、モジャモジャ頭の男だった。
「うるさい、お前の仕事はさっきのヨルさんをいう女性を見つけ出すことだ」
「またそんな無茶を…この街に一体どれだけの女がいると思ってるんだ?ヨルなんて名前の女だって何人もいるかもしれないし、もしかしたら偽名かもしれないぞ」
「舞踏会に来ておいて偽名を使う理由が見当たらないな。敵国のスパイならまだしも…いや、あの動きならスパイという可能性も否定できないが…とにかく探すんだ、このガラス靴があればなんとかなるだろ。クビにされたくなかったら1週間以内にやれ」
 モジャモジャ頭の男に、この鬼!と言われながらも、全く気にしていない様子でガラスの靴をモジャモジャ頭の男に渡し城に戻って行きました。
「ったく、王子様の命令じゃしょうがねぇな、いっちょ本気出しますか」


 1週間後、シンデレラの家には王子様がやってきていました。
「まぁ、王子様が直々にいらっしゃるとは…一体どんなご用件でしょうか」
「王子様⁉ちょっと大変!急いでおめかししなくちゃ!お母様!王子様に一番高級なお茶をお出しして少し時間を稼いでちょうだい!」
「お前が王子か、いけ好かない顔してるぜ、一体何の用でうちに来たんだ?」
 浮遊霊は未だ庭の大木に縛られたまま怪訝な顔していいました。
「いえ、お茶は結構です。今日はこちらにいるヨルさんに会いに来ました。呼んできてはいただけませんか?」
「わかりました。シンデレラ、王子様がお呼びだ」
 台所にいるシンデレラに向かって継母が叫ぶと、二階にいた義姉がこれでもかと言うほど煌びやかにアクセサリーを着飾り下りてきました。
「私が!私がヨルです王子様!」
「おまえなぁ…」
「おほほほ!お母様ったらボケですか?嫌ですわ」
 義姉が一生懸命誤魔化しましたが、台所からシンデレラが姿を現してしまいました。

「今お茶を入れていたのですが、どうかされましたかお義母様、あらロイドさん…」
 なんでアンタ出てくるのよ!空気読みなさいよ!と王子様から見えないように義姉がシンデレラに文句をいうと、シンデレラはどうしたらいいのか困ってしまいました。
「会いたかったですヨルさん。忘れて行ったこのガラスの靴をお返しに…そしてこの靴がぴったり合ったあかつきには、僕と結婚してください」
「ロイドさん…でも、私は王子様にふさわしくはありません。料理もまともにできませんし、出来るのは裁縫と家事と薪割りくらいで…あ、でも薪割りはすごく得意なんですよ!」
「ふふ、料理は専属の料理人がいますから問題ありません。他の家事もやらなくていいんです、だって妃とはそういうものですから。薪割りは…ヨルさんが望むなら続けてもらっても構いません」
 二人の甘い空気に義姉は鼻息を荒くして割り込んできました。
「待ってください王子様!ガラスの靴がぴったり合えば結婚してくれるというのは本当ですか!それなら私にもその靴を履かせてください!そして私と結婚してください!」
「よく言ったぞ女!シンデレラと王子の結婚を妨害すれば今までのシンデレラへの仕打ちは見逃してやる!」
 大木の浮遊霊は窓越しに室内に向かって叫びました。王子様は義姉の乱入に戸惑いながらも、それで気が済むならばとガラスの靴を渡し、義姉はうやうやしくガラスの靴を受け取ると勝ち誇った笑みを浮かべガラスの靴にそっとつま先を入れました。
「え、噓でしょ!入らない!お、おかしいわ足だけ太ったのかしら!ちょっとお待ちくださいね…」
 あと少しで入るのに!なんとしても王子様を手に入れたい!王子様と結婚するのは私なんだから!
 必死にガラスの靴に足を詰め込もうとする義姉をシンデレラは止めようとしました。
「お義姉様、それ以上はケガしてしまいます。危ないですからもうやめてください」
「アンタは黙ってなさい!そうよ!台所からナイフを持ってきて!足を少し削ればはいるわ!」
「そんなことしてはダメです!やめてくださいお義姉様!」
「じゃぁ力ずくでも入れるからいいわよ!」
「すまないねぇうちの子が」
 継母の言葉に適当に返事をするが、俺が見ていることを忘れていないか?ぴったり入るという意味を分かっているのだろうか、それとも止めに入るべきなのか…と王子様は呆然とその光景を眺めていました。
 義姉はなんとか力ずくで足を入れようと、渾身の力で足をねじ込みました。するとその圧力に耐えきれなかったガラスの靴は粉々に砕け散ってしまいました。
「あぁそんな!私のガラスの靴がぁ‼私の結婚が‼」
 義姉は粉々になったガラスの靴を必死に手でかき集めようとする義姉の手は血まみれになってしまいました。シンデレラは義姉に駆け寄り手を取りました。
「もうやめてください、お義姉様の綺麗な手が傷だらけになってしまいます」
「ぐすっ…ごめんねシンデレラ、私のせいでガラスの靴が…」
 ふふふ、ガラスの靴さえなければシンデレラとの結婚も無くなるはず!フェアとはいかないが、これで私にもチャンスがまだあるはず!血まみれの手でシンデレラを抱きしめる義姉は心中で嘲笑っていました。
「王子様申し訳ございません、この償いは私の身をもって…そう、王子様との結婚で償って見せます!」
「いえ、お気持ちだけで結構です。ヨルさん、ガラスの靴は無くなってしまいましたが、僕と結婚してはもらえませんか?もしよければ、この手を取ってもう一度踊ってください」
 王子様の予想外の発言に義姉の口は開いたまま塞がらず、その横でゆっくりと立ち上がったシンデレラは王子様の手をとりました。
「はい、私でよろしければ是非お願いいたします」
「必ず幸せにします」

 

「そのご、しんでれらはおしろでしあわせにくらしました。めでたし、めでたし」
「おいおい、俺ちょい役じゃねーか、出番少なすぎだろ!主役とは言わないがもうちっと活躍するイケメン役とかなかったのか?ほら、姫を奪い合うイケメン騎士とか」
「もじゃもじゃのやくつくってやっただけいいとおもえ、ほんとうならでばんなかった。それにきっとちちにボコボコにされるだけだぞ」
「うっ…それは確かにそうだけどよ…。なんだよなんだよ!俺だってたまにはイケメン主人公役とかやってみてぇよ!」
「そんなのアーニャにいわれてもこまる。ボンド、おわったからちちとははのとこいこう!」
「ボフッ!」
「待てよ!俺も行くってぇー!」