キャスパーの書庫

キャスパーです。 大好きなアニメの妄想モリモリの二次創作小説をぽつぽつと書いていこうと思います。 アニメ全般大好きなので、広く繋がっていけたらいいな。

赤いずきんの女の子

 

「アーニャさん、この美味しいご飯を森のおばあさんのとこまで届けてもらえますか?」
 赤いずきんをかぶった可愛らしい女の子はバスケットを受け取り元気よく返事をした。
「うい!アーニャにまかせろ!じゃはは、いってくるます!」
「いってらっしゃい、寄り道をしないように。あとオオカミさんには気を付けてくださいね」
 見送る母に向かって大きく手を振る赤いずきんの女の子。バスケットの中を覗くと、おばあさんへのご飯とは別にクッキーが入っているのを見つけた。これはもしかして自分のおやつかも!と思わず笑みを浮かべた。
「アイツ何か美味そうな匂いのものを持ってたな…べ、別に一緒に食べたいなんて思ってるわけじゃねぇけど、他のオオカミに食べられるくらいなら俺が食べてやろうってだけだからな!」
 その様子をこっそりと見ていた黒い影は、どこの誰に言い聞かせているわけでもないのだが、どこかの誰かに言い聞かせると、赤いずきんの女の子を追いかけて行った。

 


「アーニャのクッキー♪クッキー、クッキー♪ちょこちっぷ~も~おいしいな~♪なっついり~も~おいしいな~♪」
 舗装などされていないデコボコ道を、自作の歌を歌いながらルンルンと進む。
「あ、きれいないしはっけん!ん~、これはいいかたちしてる…たぶんけっこうレア!おばあちゃんにもみせてあげよう!」
「おい、寄り道すんなって言われてただろ」
「ん?ダミアンなんのようだ?」
 友達…と言えるかわからないが、何度も話したこともある顔なじみに“なんのようだ”と言われるのは少々心にくるものがある。せめておはようとか言えないのかよ…まぁ俺も言ってないけど、とぼやきながらも、意を決して赤いずきんの少女に本題を伝える。
「何の用って…お前が森に入っていくのをた・ま・た・ま・見かけたから!ちょっと様子を見に来ただけだ!それにこの辺は怖いオオカミが出て危ないから…つ、ついて行ってやらないこともないぞ」
「こわいおおかみって…ダミアンもおおかみじゃん」
「俺の事じゃねぇよ!それとも…お前は俺のこと怖いやつだと思ってんのかよ」
 綺麗な黒い毛並みに凛々しい耳と尻尾を持つ彼は、赤いずきんの女の子の目をじっと見つめて言う。女の子がそんなことを思っているなんてかけらも思っていないが、所詮自分はオオカミだ。周りからは疎まれ、敵視される。オオカミを崇拝する輩もいるが、結局そいつらだって本当の自分を知っているわけじゃない。一匹狼なんてカッコイイ言葉もあるようだが、なりたくてなった奴はいるのか?周りがそうさせたんじゃないのか?自分を守るためにそうしたんじゃないのか?少なくとも自分はいつもそうだった。
 そこに現れたイレギュラーな女の子に興味を持ってしまうのは、仕組まれた必然だった。
「ダミアンはこわくない、いいやつだから」
 自信満々にいう赤いずきんの女の子の回答に、黒い彼は満足気な笑みを浮かべ歩き出した。
「ほら、さっさと行くぞ。帰りが遅くなったら心配されるだろ」
「そうだった、このまえくらくなるまであそんでたら、ははがすごくしんぱいしてた」
「あーあの時はすごかったな…森中の動物たちが逃げ出して、草木も震えてるのを感じた…お前の母親何者だ?」
 実はその一件以来、この辺の怖いオオカミたちも遠くの方へ逃げて行ったんだけど、という情報は心の奥に留めておいた。
「んーふつうのはは、たまにたのしそうにとりさんさばいてる」
 それは結構なクレイジーじゃないか?お前の普通の定義はどうなってるんだ?という疑問と共に、赤いずきんの女の子が自分と会っているなんて絶対に知られてはいけないと身震いをした。

「このおはなきれいだ、はなかんむりにしておばあちゃんにあげよう……アーニャはなかんむりつくれなかった」
「お前そんなことも出来ないのかよ、その辺の女はよく作ってるぜ」
「じゃダミアンはできるのか?」
「俺ができるわけないだろ、花冠なんて必要ないからな、作ろうと思ったこともない」
「じゃアーニャとおなじだ♪」
「だ、だからちげーつの…」
「じゃはなたばでいっか、どれにしようかな~」
「この前、綺麗な花が咲いてるとこ見つけたから、今度連れて行ってやるよ」

 きっと驚くぜ、と黒い彼は優しげに赤いずきんの女の子を見つめるが、そんな二人の仲睦まじい様子を遠くから見つめる人影には気づいていなかった。それは彼がオオカミとして劣っているというわけではなく、ただ単に相手が気配を消すプロだったというだけのこと。

 

 猟銃を持った男性は草木に隠れながら黒い彼を視認した。
「散々オオカミには気を付けろと言ったのに、なんでオオカミと一緒にいるんだ。やはりアーニャに森を歩かせるのは危険だ」
 銃口を構え狙いを定めるが、下手をすると赤いずきんの女の子にも当たる可能性があった。
 狙撃を諦め、オオカミに気付かれない程度に近づき尾行する方向に切り替えた男性は、素早くその場を移動した。

 そうこうしているうちにおばあさんの家に到着した2人。
「どうしたダミアン、はいらないのか?」
「いや、俺が入ったら驚かせるだけだから」
 今までアーニャと森で遊んだことはあったが、おばあさんの家に来るのは初めてだった。というか、オオカミを普通に家にあげようとしているお前は大丈夫なのか?とついつい突っ込んででしまった。
「ダミアンはいいオオカミだから、それにおばあちゃんはおどろかないからだいじょぶ!」
 その謎の自信はどこから来るんだ?と疑問を伝えるよりも早く、赤いずきんの女の子は黒い彼の手を引いて家の中へ招いた。
 赤いずきんの女の子に好意を持っていた黒い彼は、あわよくばおばあさんとも仲良くなっておきたいと若干の下心を胸におばあさんに声をかけた。
「は、初めまして!アーニャさんの友達?のダミアンといいます!」
「おばあちゃん、こいつダミアン、いいオオカミ」
 白いもふもふとしたパジャマに、黒い蝶ネクタイを付けたおばあさんは、まっすぐにダミアンを見つめ返事をした。
「ボフッ!」


「え…?あれが、おばあちゃん?」
「うい、おばあちゃんのボンド」
「いやいやいや!あれどう見ても犬だろ!しかもオスだし!どっちかって言ったらおじいちゃんだろ!!」
 自分が知っているおばあさんの姿とは似ても似つかぬその姿に困惑した。
「なにいってるんだ?ボンドはどうみてもおばあちゃんだ」
「ボフゥ」
 もふもふのおばあさんもまんざらでもなさそうにしているのを見て、俺が間違っているのか?俺がおかしいのか?と軽いパニックを起こしていた。
「えっと…おばあさん、ですか?」
「ボフゥ」
「アーニャさんとはいつも仲良くさせてもらっていまして…」
「ボフッ」
 全然会話通じねーーー!もう何言ってるのかわかんねぇ!やっぱりこれ犬だよね!と1人つっこみをする黒い彼はふと気づいた、これではおばあさんと仲良くなる作戦は失敗になると。
 同じイヌ科なのに言語が通じる気がしないとはどういうことか。
「おばあちゃん、ははからのごはんここにおいとくな。ダミアン、クッキーいっしょにたべよ、アーニャのをとくべつにわけてやる」
 母からのご飯と聞いて急に布団に潜り込むおばあさんを尻目に、赤いずきんの女の子から差し出されたクッキーを頬張る。
「うん、美味いな、これお前の母親が作ったのか?」
「ううん、ちちがつくった、ははりょうりできない」
 こんな美味しいクッキーが作れるなんて、父親は随分可愛らしい人なのかもしれない。そう妄想を広げながら、もう一枚…とチョコチップクッキーへ手を伸ばす。
 その時、突然ドアが大きく開いたかと思えば、黒い彼は銃口を突き付けられていた。
「アーニャ!おばあさん!伏せろ!!そこのオオカミ!アーニャとおばあさんから離れるんだ!」
 黒い彼は驚いてその場から動くことができなかった。


「ちちうるさい、アーニャいまダミアンとおやつたべてる。ダミアン、こっちのなっついりクッキーもおいしいぞ」
 そういって先ほどと同じように差し出されたクッキーをオロオロと黒い彼は受け取る。
「あ、ありがとう…って今クッキー食ってる場合かよ!え⁉この人父って言った⁉お前の父親なのか⁉この怖そうな猟銃構えてる人がこの美味しいクッキー作った父親⁉」
 そう、と言いながらポリポリとクッキーを食べる我が子を見ながら、猟銃を構えたままの男性も困惑していた。
 なんでアーニャはオオカミと仲良くクッキーを食べてるんだ?てっきりアーニャが襲われると思って来たのだが…そもそもオオカミってクッキー食べるのか?でも美味しいって言ってくれたのは嬉しい、それは自信作のクッキーだからな。いや、今はそういう場合ではない。
 冷静さを取り戻した男性は、オオカミから視線を外すことなく赤いずきんの女の子に問う。
「アーニャ、これは一体どういうことだ」
「ダミアンオオカミだけどいいやつ、アーニャいつもいっしょにあそんでる、きょうもこわいオオカミからまもるっていっしょについてきてくれた」
「そんなの信用できるわけない、油断させてお前を襲うかもしれないぞ」
「そんなことは絶対にしません!本当に俺はこの子を守ろうとしただけなんです!」
「ボフッ!」
「ほら、おばあちゃんもこういってる」
「うむ…おばあさんがそういうなら…」
 え⁉今の一言で納得しちゃうの⁉この犬…じゃなくておばあさん何者⁉でもおかげで助かったな、と安堵した黒い彼は、穏やかな表情のもふもふとしたおばあさんに心の中で感謝した。
「今は見逃してやる、しかし俺はいつでもこの森でお前も見ている。もしアーニャに何かしたらただでは済まさないぞ」
 男性の目力に圧倒され、下手をすると下げられた猟銃より恐ろしいのではと本能的に恐怖を覚えた。それもそのはず、黒い彼に対して失神させられるのではと思うほどの殺気を飛ばしてきたのだ。
 黒い彼は、絶対にこの人には勝てないと身を縮め、今自分にできる精一杯の誠意を伝えた。
「も、もちろんです!何があっても一生アーニャさんを守ります‼俺がアーニャさんを幸せにします‼」
「っ!俺は認めないぞ‼アーニャにはまだ早い‼」
 焦ったせいで言わなくてもいいことまで言ってしまい、黒い彼は再び銃口を向ける羽目になってしまった。

 

「あークッキーおいしかった。ちち、こんどはダミアンのぶんもおおめにつくって」
「ボフゥ」